【企業価値評価】身近な会社の理論株価をExcelで計算する(ピンタレスト:~2021年9月末データ)

【企業価値評価】身近な会社の理論株価をExcelで計算する(ピンタレスト:~2021年9月末データ)

はじめに

2021年初頭、新型コロナウイルスの感染が拡大して仕事以外の外出が憚られる状況が続いたので、これを機会にデジタルイラストを描いてみようと思い立ちました。

同じくコロナ禍の最中にはじめた家庭菜園についてのブログ記事に使用するため野菜や農作業の挿絵を描こうとの思いつきで、ワコムのペンタブと描画ソフトの「クリップスタジオペイントプロ」を購入しました。

ちなみに私はパソコンに詳しくもなければ絵心も全くありませんので、我ながら無謀な行動だと思いますが…。

さて、道具は揃えてしまったので、何とかイラストを描かなくてはいけません。

イラストの構図についてのヒントを得るため、画像検索サービスのピンタレストを利用することに。

このピンタレストですが、使ってみると自分が潜在的に求めていたイメージを(ある程度)顕在化してくれるという特徴がたいへん面白いと感じました。

ピンタレストという会社は米国企業で、ナスダック市場に株式を公開しています。

折しも株式市場では新型コロナ拡大による巣ごもり需要増加という連想のもと米国ハイグロース株が活況を呈しており、ピンタレスト株式も力強い上昇曲線を描いていました。

これまでの利用でピンタレストに対し好ましい印象を抱いていた私は、資産運用においてもピンタレストにベットすることを決意。

そして、詳細に企業研究することなく、ほぼ反射的に87ドルで100株を購入。

すると、皮肉にもこの付近をほぼ高値として株価が下落し始めました。

思えばこの時すでに地獄が始まっていたのですが、当時の私はそのことに気付かず、下落は一時的なものと思い込み、さらに77ドルで100株、67ドルで100株、53.75ドルで50株と買い下がり、ついに資金が尽きました。

そして、12月末現在、ピンタレストの株価は40ドルをも大きく割り込み35~36ドル台で推移しています。

ピンタレスト週足チャート(TradingView)

いつものことではありますが、投資対象について十分に調べなかった事を大後悔…。

年末を迎え、新型コロナウイルスのオミクロン株やFRBの金融政策に対する見通しの変化等により、米国株の先行きは不透明さを増しています。

助かる見込みはほぼないだろうなと思いつつも、自分の投資行動を全くの無駄に終わらせないために、初めての試みではありますが、ピンタレストを教材として米国株式の理論株価の計算にチャレンジしました。

ピンタレストの概要

ピンタレストは、ビジュアル共有プラットフォーム「Pinterest」を提供しています。

本社はカリフォルニア州サンフランシスコにあり、ベンジャミン・シルバーマン氏がCEOを務めています。

まず、米国企業の開示書類を閲覧できるシステム「EDGAR」でピンタレストの10Kアニュアルレポートを表示し、グーグル翻訳を使って読んでみることに。

概要はだいたい以下のような感じです。

ピンタレストは自らの使命を 「誰もが愛する人生を創造するためのインスピレーションをもたらすこと」としています。

現在、世界中の4億5900万人が自分たちの生活のインスピレーションを得るために 「Pinterest」 を利用しているとのこと。

生活のインスピレーションを得たいシーンとしては 、例えば夕食の調理や何を着るかの決定などの日常の活動、家の改造やマラソンのトレーニングなどの体系的な取り組み、フライフィッシングやファッションなどの個人的な趣味、結婚式などのマイルストーンイベントまたは休暇の計画など多くのシーンが想像できます。ちなみに私はデジタルイラストの構図のヒントを得るうえで大いに役立ちました。

私たちは往々にして自分が欲しいものを説明する言葉を持っていないものですが、実物を目にした時に「あぁ、自分はこういうものが欲しかったんだ!」と気付くことがよくあります。

「Pinterest」 は画像や動画によって言葉では表現できない概念を伝え、人々が視覚的なインスピレーションを得るのに最適なWeb​​上の環境を提供しています。

ピンタレストはユーザーを「ピナー」と呼んでいます。そして、ユーザーの個人的な好みや興味に基づいて、「ピン」と呼ぶ視覚的な推奨事項が示されます。

次に、これらの推奨事項を保存して、「ボード」と呼ばれるコレクションに整理します。視覚的なアイデアを閲覧して保存することで、ピナーは自分たちの将来がどのようになるかを想像することができ、インスピレーションから行動に移ることができます。

ピンタレストが目標としているのは、各ピンが有用なソースにリンクすることです。すなわち、ピナーが「Pinterest」で見たアイデアに基づいて行動を起こすように促す機能を構築し、見つけた商品を簡単に購入できるようにすることに重点を置いています。

理論株価を計算する

書籍「バリュエーションマップ」(石島 博 著/東洋経済新報社/2008年)を参照のうえ、Excelで「見積財務諸表モデル」を構築し、DCF法によりピンタレストの理論株価を計算してみたいと思います。

過年度の要約財務諸表の作成

図表1を参照し、損益計算書(P/L)を要約します。

図表1 損益計算書(P/L)の要約

図表2を参照し、貸借対照表(B/S)を要約します。

図表2 貸借対照表(B/S)の要約

データは 米国企業の開示書類を閲覧できるシステム「EDGAR」 から取得しました。

今回の分析にあたっては、 「EDGAR」 で参照可能であった2018年以降のデータを使用しました。

2021年(予想)の数値は、要約P/L については「売上高」「費用」「利息」「支払税額(法人税引当金)」を9月末数値の4/3倍し、要約 B/S については9月末数値をそのまま用いています。

なお、Excelでの作業結果をGoogleスプレッドシートにアップロードして表示しており、色付きのセルには計算式が入っています。

見積財務諸表モデル 式

売上高を出発点とし、拠出資本を要約B/Sのプラグ(残差)としてモデ ル化しました。

モデル式は以下の通りです。

ピンタレストの見積財務諸表モデル式

見積財務諸表モデルのパラメータを推定する

推定の結果は以下の通りです。

今回の分析では、短期(当初5年)の売上高成長率を過去平均値の48.89%に設定しています。

費用/売上高比率を80%と仮定しています。ピンタレストは2021年に営業利益ベースで黒字化する見込みですが、当年の 費用/売上高比率 は90%強です。

ですので、この80%という数字はかなり甘めな見積りという気もしますが、大いなる期待を込めて、というところです。

資産・負債は過去平均値ではなく最新値(2021年9月末時点の残高)を用い、売上高に対する比率を設定しています。

また、主要な資金調達は増資によってまかなう姿をイメージし、拠出資本を要約B/Sのプラグ(残差)としてモデル化しました。

このように仮定すると発行済株式総数に影響を与えることが考えられますが、モデル構築の際にはある程度の捨象はやむを得ないため、発行済株式総数の変化は考慮していません。

11年目以降の長期の成長率は米国議会予算局(CBO)公表の長期名目GDP成長率3.5%に設定しました。

中期(6~10年)の成長率は、短期と長期の成長率を「線形補完」して設定しています。

売上高成長率の導出についてまとめると、以下の通りとなります。

  • 短期の売上高成長率⇒過去の売上高成長率の平均値
  • 長期の売上高成長率⇒直近の潜在GDPの成長率
  • 中期の売上高成長率⇒短期と長期の売上高成長率を「線形補間」して設定

なお、「線形補間」の数式は以下の通りです。

\[ g_t^{SA}=g_s^{SA}-\frac{g_s^{SA}-g^{∞}}{6}(t-5) \]

見積財務諸表を作成する

上記の手順を経て作成した見積財務諸表は以下の通りとなりました。

2021年から営業利益ベースで黒字化する見込みのため、税率は現行の連邦法人税率21%に設定しました。

なお、連邦法人税率は26.5%への引き上げが検討されているようです。

しかし、設定したパラメータに基づいて見積財務諸表を作成した結果、フリーキャッシュフローが10年目までプラスにならず、理論株価の導出には不都合な状況となりました。

そこで、減価償却費/固定資産比率を過去平均値より10.18%に設定して推定した減価償却費を、税引前利益に支払利息とともにアドバックすることによってEBITDAを算出し、これをフリーキャッシュフローとみなすことによってそれらしい結果を得ることが出来ました。

株主資本コストを推定する

伝統的な「資本資産価格評価モデル(Capital Asset Pricing Model:CAPM) 」によって株主資本コストを推定しました。

まず、ピンタレストの株価、S&P500の指数値、およびリスクフリーレートとして米国国債10年債利回りに関する月次データを取得します。なお、データの取得先は以下の通りです。

  • 個別企業株価、S&P500、米国国債10年債利回り⇒Investing.com

データが取得出来たら、Excelを用いて必要な項目を計算していきます。

ちなみに、個別企業のβ(ベータ)値は、現在のところMSNマネーで無料提供されていますので、これをもとに簡便に株主資本コストを推定することも可能なのですが、本稿執筆時点ではピンタレストのβ(ベータ)値は算出されていませんでした。

推定の結果は以下の通りです。

最長30カ月サンプルに基づき、株主資本コスト21.98%が導かれました。

理論株価を計算する

先ほど導出した株主資本コスト21.98%を用いて理論株価を計算すると、50ドルという結果が導かれました。

2021年12月末現在、ピンタレストの株価は30ドル台半ばで推移していますので、ここからの買付であれば勝機はありそうですが、私の平均買いコスト(手数料込み)は74.7ドルですので、やっぱり望み薄かな・・・。

ただし、感覚的に株主資本コストの21.98%は高すぎると感じており、Damodaran On-lineというサイトに掲載されていた業種「Computer Services」の株主資本コスト6.20%(2021年1月8日更新)を用いて理論株価を計算すると、何と678ドルという結果に。

このように、理論株価の導出にあたっては用いる数値によって結果が大きく異なりますので、過信は禁物ではあるものの、現在の株価は売られ過ぎであると判断しましたので、しばらくは保有を継続してみたいと思います。

最後になりましたが、本稿は個別銘柄の投資推奨を目的とするものではありません。仮に本稿を参考に投資を行った場合においてもその損益等に関して一切の責任を負いかねます。投資はご自身の判断と責任において行っていただきますようお願いいたします。

(おわり)